篠原川< 相模川水系>


この川の事を知る人は余りいないんじゃないかと思う。
何故なら、相模湖に流れ込むこの川の様子を見てまさかこの川にヤマメや渓流魚がいる などと思う人はいないからだ。
確かに下流部のこの川は汚く汚れてはいる。かなり上流の方までそうだ。しかし、最上流 のほんの一部には確かに渓流魚が生息している。
私がこの川を知ったのはひょんな事からで、偶然だった。
道志川へ釣りに行った帰り道にどこか 近道はないかと思って入り込んだ山道の途中にこの川が在ったのだ。
真夏の暑い日で、車がやっと通り抜けられる峠の道を過ぎてやれやれと一息つくために車を止めた 脇に細い沢が在った。在ったと言うだけで殆ど水が流れていなかったのだ。
でも、釣り師の癖でよく見てみるとあちらこちらに水溜まりがあって水面がざわめいている。 そこには沢山の小魚が泳いでいた。
人が近寄って来たので必死に逃げ回っているが、せいぜい数m しかない水溜まりなので逃げ場がない。結局右往左往しているだけだった。 そっと、数匹すくい上げて見るとヤマメの稚魚とアブラハヤだった。
これには私も驚いた、まさかこんな名も知らぬ小さな沢にヤマメが居るとは。このままでは やがて水が干上がって皆んな死んでしまうと心配になった私は、周りを見回すともっと 大きな水溜まりがあって細い流れが落ち込んでいたのでそこへ少しだけでもヤマメの稚魚を 移す事にした。
車から水棲昆虫採集用のネットを持ってきて、稚魚達を掬い上げて大きな水溜まりに移し終えた。 汗だくで腰を下ろして休みながらふと空を見上げると真っ黒な入道雲があっという間に広がって来て 冷たい風が強く吹いたと思ったらすごいどしゃ降りになった。
慌てて車に逃げ込んで様子を見ていると、沢はあっという間に増水して濁流の様になった。
結局暑いさなか汗だくで私がやった事は徒労でしかなかった、が、自然環境とは良く出来た 物だと感心した。しばらくして、又この川に来てみるとやはり水は殆ど無かったが以前よりは 大きな水溜まりが増えていて、そーっと様子を伺っていると25〜6センチのヤマメが石の下から 顔を出したり引っ込めたりしていた。ここは釣り師の悪癖で魚の顔を見て竿を出さない訳が無く ラインの先に#18のフライを結んでいた。案の定、ヤマメは落ちてきたフライに何の躊躇も無く 飛びついた。水に戻してやりながらこんなかわでねぇと思った。
下流の集落の雑貨屋で、とぼけてこの川には何か魚は居ますか?などと聞いてみたらおじさん曰く この川にはヤマメが居るが、村中で昔から大事に守っているとの事でした。
相模湖が出来るまでは相模川本流からヤマメが登って来ていたが、相模湖が出来た頃に砂防堰堤を 作ってしまったのでヤマメが登ってこれなくなった。それで、篠原川に少しだけヤマメが取り残されて 生き残っているのだそうです。
もし、この川を訪れたら釣りなどしないで下さい。村の人に見つかるとどなられます。


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